絵画や版画、彫刻など、美術作品には作者のサインが入っていることが多いですね。
でもステンドグラスには作者のサインの入った作品は、あまり見かけません。
ステンドグラスに使用するガラス自体にメーカー名のサインが入っているものならあります。
オセアナというメーカーですが、ガラスに「Oceana」という刻印が入っています。
それはさておき、ステンドグラスで作者のサインを見かけないのはなぜでしょうか。
そもそも美術作品においてサインが書かれたのは主に以下の理由です。
①作者の判別のため
②完成品であることを示すため
③資産価値の保証のため
①作者判別のため
これは純粋に「自分の作品だから名前を書いた」ということです。自分の持ち物に名前を書くのと同じ感覚です。
②完成品であることを示すため
「これで描き終わりです、完成しました」という意思表示のためです。昔話で言うと「めでたしめでたし」の部分。
③資産価値の保証のため
そもそもサインの起源は紀元前6世紀のギリシアの壺絵にまで遡ることができるようです。
しかしすぐには一般化せず、作者自身がブランド化するルネサンス以降にメインになってきたようです。
つまり誰が描いた作品かで価値が出ることがあるので、その資産価値を保証するものとしてのサインをします。
この3点が主な理由です。
それならばステンドグラスにもあって然るべきなのですが、そうはなかなか問屋が卸さないのです。
ガラス製品にサインを入れるのが難しいから?
確かにそれはあるかもしれません。
でもエミール・ガレやルネ・ラリックなどのガラス製品にはサインが入っている作品もあります。
そしてもうひとつ、ステンドグラスならではの問題があります。
それは原画のデザインの作者と実際のステンドグラスの作者が違う場合があるということです。
例として、公益財団法人日本交通文化協会の2020年3月10日の記事を引用させていただきます。
広島高速交通アストラムラインの本通駅に大きなステンドグラス作品がお目見えし、2月29日に除幕式行われました。これは漫画家のこうの史代先生の原画・監修のもと、先生の代表作のひとつ「夕凪の街 桜の国」をモチーフに、「クレアーレ熱海ゆがわら工房」(静岡県熱海市泉)がステンドグラス作品にしたものです。
このように、右端下にあるサインはあくまで原画の作者のサインです。
ステンドグラスを作った方のサインではありません。
ステンドグラスはこのように、元々の原画のデザインの作者と実際のステンドグラスの作者が異なる場合があります。
例えるなら「シンガーソングライタータイプ」か、「純粋なボーカリストタイプ」かといったところでしょうか。
上記の場合は原画の作者の方が優先された形になりますね。
ではステンドグラス作家の方が自分の作品にサインを入れることはできないのでしょうか?
ここからはどうしたらステンドグラスにサインを入れられるかを考えていきます。
例えば作品の完成後、ガラスに直接描くことは可能でしょうが、デザインや作品としての完成度、ガラスの透明度が失われる可能性もあります。
それならば隠し落款やモノグラムのように作品のデザインの中に組み込むという方法もあります。
しかしデザインにもよるでしょうが、毎回は厳しいでしょう。
ロウによるシーリングや刻印もデザインや強度の面で問題があるかもしれません。
ステンドグラスは光が差し込むことによってその美しさを発揮できるものです。
絵画のように見る面が決まっていて片面からだけ鑑賞するというわけにはいきません。
なので作品の裏面に詳細データを書いた紙を挟み込んで残しておくというようなこともできません。
そして先ほどの「シンガーソングライタータイプ」か「純粋なボーカリストタイプ」かによっても変わってきます。
「シンガーソングライタータイプ」であれば、作品のデザインを自分の好きなように変えることができますが、「純粋なボーカリストタイプ」はデザインを勝手に変えることはできません。
「純粋なボーカリストタイプ」の優先順位は原画をそのまま忠実にステンドグラス化することが第一であり、自分の名前を入れるために勝手にデザイン変更や追加をすることは、まず許されません。
もし仮に入れられる許可が得られたとして、どのようにしたら原画の作者とステンドグラスの作者の名前を分かりやすく、誤解のないように作品に入れられるでしょうか。
そこで私は提案します!
ステンドグラスならではの特徴といえばケイムという、ガラスとガラスを仕切る線です。
ならばこのケイムを活かしましょう!
つまり「ケイムにサインをする」、もしくは「特徴的なケイムの線や色使いにしてオリジナリティを出す」というのはいかがでしょうか?
そして原画のデザインの作者の名前は作品中にデザインとして入れ込み、ステンドグラスの作者の名前はケイムに残すように棲み分けをするのです。
これならステンドグラスの鑑賞方法に、ガラスの美しさだけでなく「ケイムを見る」という楽しみも増えることになります。
いかがでしょうか?
この方法がベストかどうかは別として、ステンドグラス自体の芸術品としての地位をさらに向上させるためにも、ステンドグラス作家の方に工夫していただいてどんどんサインを入れていただきたいと思います。
だがしかし。
そうは言ってもサインを入れない方が良い場合や、ステンドグラス自体がどのように世間に認知されているかによって問題が出てくる場合がありますが、それはまた、別の機会に。
<参考ホームページ>
https://artscape.jp/artword/index.php/署名
http://komagata-k.com/sign/ https://blog.goo.ne.jp/fontana24/e/b7efc34c8569229a84d78a35fd691611 http://jptca.org/news/20200310-15588/